「……どうした?」


 しびれを切らした長嶺さんに聞かれたのは、最後のお土産コーナーを見ている時だった。


「何がですか?」


 私はあくまで普通に、返事をする。


「……」


 長嶺さんは、例のごとく私の顔を覗き込んできて、じっと見つめて私の心を見透かそうとする。


「やっぱり待ってる間になんかあったんじゃないの」

「……いいえ」


 私は手にしていたイルカのぬいぐるみを商品棚に戻して、長嶺さんに背を向けて歩き出す。


「理子ちゃん」

「はい」

「ねぇ」

「はい」


 スタスタ、スタスタ。 歩く。


「理子」

「……」

「待ってよ」

「……」


 私はぐっと歯を食いしばって、水族館の外に出て、随分人通りの少なくなった橋の上を歩いて逃げていく。

 冷たい風が頬に体当たりしてきて、思わず目を瞑る。

 今捕まったら、自分の中に隠してるめんどくさい自分が顔を出してしまう。

 初めてのデートが、終わってしまう。


「待てって、理子」

「!」


 長嶺さんに手首を掴まれて、引き留められる。


「もしかして、麗華さん?」


 ビクッと反応してしまって、長嶺さんが「やっぱり」と息をつく。


「何か言われた?」


 まっすぐな目で私を見る長嶺さんに嘘をつこうとしたら、


「……っ、ち、ちがい、ま……っ」


 不意打ちで涙腺が決壊した。

 私の涙を見てハッとした長嶺さんが深刻な顔で私の頬に手を添える。