「理子ちゃん?大丈夫?」

「!」


 長嶺さんが私の顔をのぞき込んでいた。


「あ……おかえりな、さい」


 そうぎこちなく返すと、長嶺さんは私に暖かいミルクティを差し出してくれる。

 大好きなはずの甘い匂いに、なぜかむせそうになった。
 

「ただいま。ごめん、かなり混んでて遅くなっちゃった。待ってる間、なんかあった?」

「え……?」

「顔色悪い」


 そう言って私の顔を心配そうにのぞき込む仕草すら、急にわざとらしく思えてしまって、そう思ってしまう自分の方に失望する。


「いえ、なんともないです」


 疑おうとする思考をかき消すように、私は笑顔で言った。


「あ、始まりますよ……!」


 動き出した壁の絵を指さして取り繕うように言う私を、長嶺さんはなにか言いたげな顔で見ている。

 
 長嶺さんはもう、複数の女性と遊びで寝ていたクズな長嶺さんじゃない。
 今は私だけを愛してくれている。
 私は長嶺さんを信じてる。 麗華さんは過去、真っ赤な嘘で長嶺さんを苦しめた人。 さっきのだって絶対嘘だ。

 私は呪文のように、自分自身にそう言い聞かせた。