「こら」


 長嶺さんがぐっと繋いだ手を引っ張って耳元に唇を寄せ、囁く。


「今日は俺だけ見る約束でしょ」


 ぶわっと顔が熱くなる私にニコッとしてから長嶺さんは、麗華さんの方へ振り返り「じゃあまた」とだけ言って歩き出す。


「っ、待ちなさいよ!」


 すかさず麗華さんが大きな声を出した。
 私たちを睨みつける彼女の表情は鬼のようで、近くにいたカップルたちがただならぬ気配を察知して少し距離を置く。
 周囲の視線なんか気にならないらしい麗華さんは、わなわなと震える声を出した。


「あなたたち、なに……? デート……なわけ、ないわよね?仕事?」


 今にも爆発しそうな麗華さんに、長嶺さんが私とつなぐ手を持ち上げてみせた。


「デートです。この通り、付き合ってるので」


 笑顔で堂々と言ってのける長嶺さんに、麗華さんが絶句する。


「行こ。理子ちゃん」


 長嶺さんは私の手を引いて、歩き出した。