「あのさぁ。今日はクリスマス・イブだよ。俺たちにとって初めてのデートだよ。そんな日に周りばっか気にしてたら楽しめないだろ」

「そうは言っても……長嶺さんは気にならないんですか?」


 長嶺さんは、まっすぐな目で言った。


「うん。理子しか見えない」


 たぶん『それリアルで言う人いるんですね』って言うべきところ。
 なのに、しっかりときめいてしまった私は声にならない。


「理子も。今日は俺だけ見てればいいよ」


 そんなことを耳元で囁かれたら。


「……っ」


 どうしようもなく熱くなる顔を両手で隠す。


「はー……可愛い。やっぱしようかな。キス」

「……いいです」

「いいです?OKてこと?」

「NOのほうです」

「ほんとはしたいくせに」

「……」

「あとでいっぱいしようね」

「……」

「ね」


 何度見ても、このふにゃっとした笑顔に撃ち落されてしまう。

 私は頭を一度だけ小さく縦に振った。