「……は?」

「キス待ち顔可愛い」


 ほんのりと殺意が降って湧いた。


「っ、ひっぱたいていいですか」

「やん。傷が残らないようにして……って痛い痛い痛いマジで」


 めいっぱいの憎しみを込めて上司の手の甲をつねっていると、私たちの後ろを新規の来店客が通り過ぎた。
 ドキッとして、その来店客のことをを注意深く見てしまう。


「どうした?」


 長嶺さんが赤くなった手の甲をさすりながら聞く。


「あ、いや……会社の人とか、取引先の人じゃないかな、と」


 口ごもりながら言うと、長嶺さんが呆れたように息をつく。


「そんなこと気にしなくていいよ」

「でも……」


 不倫してるわけではないし、社内恋愛で結婚した人だっているにはいる。 だけど同じ営業部の人とか、ましてや取引先の人に見られたりしたら気まずいし、きっと仕事がしづらくなる。
 そんなことをうねうね考える私に、長嶺さんは私の顎に手を添えて自分の方に向かせた。