「……あ、お疲れ様ですー二ノ宮です。はい……はい……その件はー……」


 仕事の電話をしてるらしい男性の声は駐車場内によく響いて、遠くなっていく。



「「……」」



 しばらく二人とも動けずにいたところを、長嶺さんが何も言わずに私のシートを起こした。

 そして私の乱れたシャツと前髪を直してから私をシートベルトの中に納め、自分も運転席に戻ってスーツの乱れを直し、シートベルトをしめる。

 それからハンドルを握って、ふぅー……と長く大きい息を吐く。

 吐く息と共に頭を前に倒していって、ゴツッとハンドルの上部におでこをのせた。


「…………ごめん、調子乗った」

「……はい」


 同じく調子に乗った自覚のある私は、長嶺さんを責められない。


「戻りますか、会社」


 いつもの調子を取り戻したらしい上司は、エンジンをかけて車を発進させた。

 それ以上お互い何も喋ることができないまま。

 私は窓の外の流れゆく街並みを眺める。

 窓に映った私の顔はどこかトロンとしてて、こんな顔で営業部に戻れないと、緩み切った頬をペシペシと叩く。