第3話


陽波「……ありがとうございました。これお金です」
 陽波は、ペコッと頭を下げてタクシーの運転手にお金を払う。タクシーから降りると、トランクに積んでもらったキャリーケースを運転手から受け取って陽波は大きなマンションを見上げる。

 【テラスシティーズ西園寺】
 ここは、都内でも高いと噂されているマンショントップ3と言われている。

陽波「何度来てもデカい……」

 陽波はマンションのエントランスを通り、多重のオートロックを頂いていたカードキーで入る。エレベーターホールでカードキーをかざすとエレベーターに乗る。
 カードキーをかざしたことでボタンを押さなくても泉月の住む階まであがることができるようになっているので楽だ。
 エレベーターが止まり、11階に止まったので陽波は降りる。

陽波「……なに、ホテル? それにこの階、二つしかないけど」

 陽波はスマホで部屋の番号を確認し、インターホンを押す。するとすぐ、泉月が出てくる。

泉月「いらっしゃい、伊瀬見さん。キャリーケース持つよ」
陽波「あ、ありがとう。お邪魔します」

 泉月は陽波のキャリーケースを持つと、陽波を入るように言い玄関へ入れる。
 廊下を歩くと、泉月に陽波が使う部屋を紹介されてキャリーケースを置くとリビングに案内される。

泉月「伊瀬見さん、そこのソファ座って。今飲み物入れるから」
陽波「えっ? あ、ありがとう」

 陽波は、白い革のソファの隅に座るとキョロキョロする。
 玄関も煌びやかだと思ったが、リビングもキラキラしている。大きな窓が設けられていてとても広く感じるし、白を基調とした床や壁は石やタイルが使われていてお洒落で高級感がある。家具も同じような色でまとめられていて統一感がある。


泉月「そんなに気になる?」

 泉月は飲み物が入ったカップをテーブルに置いて陽波に聞く。

陽波「はい。だってこんな素敵なお家、初めてで……それに、東雲さんは本当にお金持ちなんだなって」
泉月「伊瀬見さんもお金持ちでしょ? 伊瀬見不動産って不動産業界じゃ有名じゃん」
陽波「確かに、そうかもですけど。伊瀬見は、お祖父様が築き上げたものですよ。父は経営者には向いていないから今じゃ他の方に経営をまかしているって感じですよ。お祖父様が頑張った恩恵を受けているだけです。いつまで続くはわかりませんが」

陽波(確かに、【伊瀬見不動産】は私の家が経営している会社で不動産業界で有名らしい。だが、東雲さんの家の会社と比べたら……いや、比べるのも烏滸がましいのだが。天と地の差がある。)

泉月「まぁ、すごいすごいって言っても結局は親が頑張っているから今お俺らの生活があるわけだもんな。このマンションの部屋も親の金で買ったものだし」
陽波「……え、買ったもの?」
泉月「あぁ、祖父が高校に入学の祝いで貰ったんだ。一人暮らしがしたかったから」
陽波「へぇー……(話がめちゃくちゃ壮大なんだけど……)」

 陽波は、カップに口つけて紅茶を飲む。その紅茶は香りが良くてとても美味しいと思い顔が緩む。


 ***


泉月「来て早々悪いんだけど、これにサインをしてほしい」

 泉月から手渡されたのは【婚姻届】。
 すぐに結婚するわけでもないのに、なぜこれを差し出してきたのか陽波はわからない。

泉月「この同居は、婚前同居。つまり、お試し婚みたいなものだろ?」
陽波「うん、そうだね。両親たちにも、そう伝えてあるし」
泉月「お試し期間が終わってこのまま継続……ずっと一緒にいたいって思ったら婚姻届を出したいと思ってる」
 
 そして泉月は、もう一枚紙を出してきた。それには【婚前契約書】と書かれている紙がある。

 婚前誓約書には第一条から第四条までは書いてあり、そのほかは白紙になっていた。


泉月「これは見出しの通り、婚前契約書だ。同居にするにあたりトラブルは避けたいし楽しく過ごしたい。だから、お互いがお互いを守るためにもこれは必要だと思う。それに内容は一緒に考えて決めていこう」
陽波「わかりました……でもこんな大がかりなことしなくても」
泉月「いや。伊瀬見さんもしてほしくないこととかこれだけは譲れないことあるでしょ? 一つ不安要素があると、信頼関係も結べなくなると思うんだ。だから一緒に考えよう」


 陽波は、婚姻届を記入すると次は二人で婚前契約書に向き合うことになった。


泉月「じゃあ、まず初めに『第一条・相互の尊重』から初めてみようか」
陽波「そうですね」

 そうして、私と彼の婚前同居が始まった。