第2話

○とあるカフェ・放課後(夕方)

 学校が終わり、陽波は泉月と待ち合わせしたカフェに来ている。
泉月「俺はチーズケーキセットのコーヒーにするけど、伊瀬見さんは?」
陽波「……じゃあ、私は、チーズケーキセットで、ミルクティーを」
 泉月は店員に注文をしてお冷を一口飲む。そして口を開く。早速、昼休みの出来事から話し始めた。


○回想・屋上

 気まづくなり、教室を出て屋上まで来た陽波と泉月。
 陽波は頭の中で整理をしようと外の景色を眺める。
陽波「あの、お尋ねしてもいいでしょうか!?」
泉月「ん?」
 教室での告白は夢の出来事なのかと思うくらい泉月はどうしたの?というような表情をしている。
陽波「ん?ではないです。さっきのなんですか!? 急に教室に来て、結婚してくださいだなんて! それになんで私の名前知ってるんですか?」
泉月「名前は、すごく探したんだ。同じ学校の制服を着ていたし、十八才になる年だと昨日言っていたから同じ学年だと推測した」
陽波「そうですか……まぁ、学校もそんなに大きくないですしわからないわけではないですけど。だけど、あの『結婚してください』とは? 私もあんなことを言っちゃったし、でもあれは冗談で」
 もしかしたらあの『あなたと結婚したいなー』と陽波がいったからそれを間に受けて求婚してきたのではないかと思い、あれは例え話で自分の落ち込んだ気持ちを誤魔化すために言ってしまったと陽波は謝る。

泉月「伊瀬見さんが言ったこともきっかけとしてはあるけど、それだけじゃなくて……俺も結婚がしたくて」
陽波(けっこん? 結婚!?)
 泉月の言葉に驚き、唖然とする。
陽波「私が言っている結婚と同じ『けっこん』で合ってますか?」
泉月「合ってる」
陽波「えっと、失礼かもしれないけど東雲くんなら選びたい放題では? それに、東雲くんはどうして結婚がしたいんでしょうか?」
泉月「そうだよね。うん。伊瀬見さんは話をしてくれたもんね、フェアじゃない。俺の家は、結構有名な会社を経営している一族なんだけど伊瀬見さんと同じように【東雲家本家の長男及び嫡子は高校卒業したら婚約を結ぶこと】が掟として存在している」

陽波(掟、ある家ってうちだけじゃなかった! ……っていうか、東雲家ってもしかしてあの東雲家?)

 東雲家――フレグランス会社を経営している一族で知らない人なんていないくらいの名家。
 なんでも、日本三大芸道の一つである香道を生業にしていたが没落してしまいその時の当主様が会社を設立。その会社が【しののめフレグランス】だ。昔の名残で、香道の道具やお香も販売していて香りのものならなんでも売っている。

陽波(東雲家なら縁談がたっぷり来そうだけど……)

 陽波はそう問い掛けようとするが、そこでチャイムが鳴ってしまいお互い教室に戻った。


 ⚪︎2話冒頭に戻り・カフェ

陽波「――東雲くん、お昼の話の続きで聞きたいんだけど……東雲家なら縁談とかもたくさん舞い込みそうだけど、縁談は来ないの?」
泉月「縁談は来るにはくるが、俺としては好きな人と結婚したい。うちの両親は、政略結婚なんだけど仮面夫婦でね家の中が冷たいんだ。だから、ドラマや小説で見るような幸せな家庭に憧れがあるんだ。だから、考え方が伊瀬見さんと同じだなと思ってね」

陽波(なるほど、なるほど……確かに、同じだ。だけど、そんな考えの人沢山いるのでは?東雲くんの周りなら特にいそう)

 頭の中で考えを巡らせていると、店員さんがチーズケーキと飲み物が置かれた。


泉月「伊瀬見さんは俺の周りには沢山女子がいて相手には苦労しなさそうって思ってるかもしれないが」
陽波「……苦労してるんですか?」
泉月「いや、してはいない。選ぼうと思ったら選べる」

陽波(モテ男発言をサラッと言ったな。やっぱりあんなに群がられたら自覚するか)

泉月「だが、周りに来る女子は俺のルックスとか外見しか見ていない。中身を知ろうと思っている人なんてほぼほぼいないと思う。そんな子じゃ、夫婦にはなれない」
陽波「まぁ、確かにそうですね。でも、私が結婚できたらなって言ったのだってイケメンだからいいなーって思っただけです。群がる女子と同じでは?」
泉月「違うでしょ、だって伊瀬見さんは群がってないしただ俺の顔が第一印象で合格だったってだけでしょ。人なんて一番最初に顔で判断するんだから」
 チーズケーキの最後の一口を口に入れて、もぐもぐさせた泉月は小さい声で「美味しかった」と口にする。
泉月「まぁ、俺も伊瀬見さんのこと可愛いって思ったし。結婚すれば毎日顔を合わせるんだし、お互いいいんじゃない? それに俺はすぐに結婚しようとは言ってないよ」
陽波「プロポーズしたのに?」
泉月「まず、お互い知ることから始めてみない? お互い高校卒業するまで半年以上はある。だから、高校を卒業する春まで“婚前同居”してみるのはどうかなって思ってるんだけど」


 ⚪︎陽波の家・夕方

泉月「……突然訪れてしまってすみません」

 陽波は、泉月を連れて家に帰ってきた。
 陽波の家は、日本家屋。陽波の母に和室に通されて二人並び座る。向かい側には、陽波の父と母が座っている。

陽波・父「今日はどういったご用件で?」
泉月「はい。単刀直入に申しあげます。僕に、娘さんをください!」

 泉月は畳に額が付くのではないかというくらい頭を下げる。
 部屋は沈黙が続き、皆が唖然とした。