朝のホームルームの時間に彼女は現れた。

腰まである艶々した黒髪。
吸い込まれそうな大きな瞳に長いまつ毛。
常に上を向いている口角。

その姿にクラス中がざわめいた。
男子の視線が、彼女に注がれているのが、
ハッキリと分かる。

女子のヤバい。めっちゃ清楚系という好意とも
悪意ともつかない言葉も聞こえてくる。

そんな反応とは裏腹に、俺はある可能性を感じ
ひたすら彼女を見つめていた。
もし、俺が思っている事が事実なら
約10年ぶりの再会となるが。

そんなドラマみたいな出来事が俺の人生に
起きるわけがないと信じていた俺には
目の前の現実を受け止めきれずにいた。

時間にしては、ほんの数秒だっただろう。
それが、俺にとってはとてつもなく長く
永遠に続いていくのではないかと思わせるには
十分だった。

そして、俺は彼女の正体
正確には名前を知ることになる。

ずっと心にあった名前を。

そういえば彼女から
昔、聞いたことがある。

「パパとママが、私の見る世界が綺麗でありますように」って付けてくれたの。

そして今、俺の目の前にいる女子は
宇佐美 緋彩、澄んだ青空と同じ名前を持った。
初恋相手だった。

担任に促され、若干上擦った声で話し始めたのは。

間違いなく。あの子だった。