「キスしたいしか出てこない。アンが欲しい言葉をあげたいから教えてくれない?」


ころんと背中で着地させられて、視界には月明かりに輝くミカエルと馬車の天井だけ。


ガタガタと細かく揺れる密室の中で、アンはミカエルに求められている。アンもミカエルが欲しくて、頭がぐるぐるした。


ミカエルは幼い頃からアン一筋で、ミカエルの今、現在、この瞬間の気持ちを疑うわけではない。


でも、ミカエルは横恋慕の達人で、アンを手に入れた瞬間に他が欲しくなるかもしれない。


そうなれば悪役令嬢の断罪死刑ルート復活で。邪魔者のアンは追い出される末路だ。


アンは、どうしてもそれが怖くて、涙が一粒、猫目の端から零れてしまった。アンの涙にミカエルが瞬きを増やす。


「……ずっと好きでいてくれる?」