「そう……確かにそれは必要なものね。あなたには私が若君の接待をするための裏方の仕事をしてもらわなければならないもの」

 そのようななりで来られたら確かに目障りだわ、と形の良い眉を寄せて告げられる。
 鈴華は長の跡取り娘であるが故に今回の嫁探しの舞には不参加だ。その代わりに長から若君の接待を任されている。
 その手伝いも本来なら今周囲にいる友人達がするのだろうが、今回はことごとく舞の参加者となっている。

 そういうわけで香夜にお鉢が回ってきたというわけだ。
 鈴華の言葉にホッとしたのも束の間。彼女は香夜を小ばかにしたような微笑みを浮かべる。

「私にとっても大事なものなのだから、ちゃんと守りなさいよ?」

 その言葉と入れ違いに友人の一人が進み出て桶を構えた。
 今までの経験から瞬時に何をされるか悟った香夜は、包みを抱え込むようにして彼女達に背中を向ける。

 バシャ!

 音と共に背中に冷たさを感じた。
 透明なもので匂いも特にないため、ただの水だと分かる。そのことに幾分ホッとした。

 酷い時には真夏に放置してしまって酸味を帯びてしまった汁物を、もったいないからという訳の分からない理由で掛けられたこともあったから。