「隠し通して、いずれは里から出すか比較的優しい者に嫁がせるか。少しでも幸せになれる道を探しているところに燦人様からの便りがあったんだよ」

 すぐに彼の求める者が香夜だと分かった。もしかしたら、日宮家ならば香夜を大事に守ってくれるかもしれない。
 だが、そちらでも産む道具として扱われる可能性があったので賭けをしてみたのだそうだ。
 舞台には上がらないように仕向けつつも、鈴華の近くに置くことで燦人が気付くかどうか。
 結局はお付きの炯が気付き舞台で舞うことになるという予想とは違う状況になってしまったが、と養母は僅かに自嘲した。

「……でも、燦人様は力だけではなく香夜本人を想っているように見えた。だから、それを信じてこのまま嫁入りを進めると決めたんだよ」

 そう話を締めくくると、燦人が困り笑顔を浮かべ口を開く。

「まさか私まで試されていたとは……。炯がいてくれて助かったな」

 そうして視線を向けられた炯は「恐れ入ります」と軽く頭を下げる。

「そうだ、ちゃんと伝えていなかったがこれも持ってお行き」

 思い出したように養母は横に置かれていた白い花の刺繡が刺された黒の帯を手に取る。

「これは華乃が私の嫁入りの際に祝いとして刺してくれたものだよ。お前にとっては形見にもなる。私と華乃からの祝いの品だと思って持ってお行き」
「母さんが?」

 手渡された帯を見つめ、何とも言えない感情が沸き上がる。ただ、嬉しいという事だけは確かだった。