疑問ばかりが浮かぶ。
 だが、今目の前で自分を守ってくれているのは確かにその厳しいはずの養母だった。

「思ったより粘りますね……。だがこれで!」
「きゃあ!」

 ばきん、と結界が壊れるような音がして、養母が弾かれる。それをとっさに受け止めようとした香夜も共に倒れた。

「その娘は養女なのでしょう? 実の娘より養女を大事にするのですか?」

 柏の呆れたような声に、養母は辛そうに体を起こしつつも睨みつける。

「香夜も鈴華も、私の大事な娘です!」
「っ!?」

 躊躇いのないその言葉は、紛れもなく養母の心からの言葉だった。
 養母が何を思って自分に厳しく接していたのかは分からない。何を考え、今守ってくれているのかは分からない。
 だが、その思いだけは本物なのだと……頭ではなく心が理解した。
 燦人によって溶かされ壊されてきた心の壁が、養母の言葉で全て砕け散る。

「お養母様……」
「……泣いていないで、逃げなさい。燦人様なら、あの方ならきっと貴女を幸せにしてくれるだろうから」

 いつの間にか零れていた涙を養母の手が拭ってくれる。

(ああ……この手だ)

 幼い頃、泣き疲れた自分を撫でてくれた手。熱に浮かされて辛そうな自分を撫でてくれた手。
 養母はずっと、自分を見守ってくれていたのだ。
 思えば、養母は厳しいだけで手を上げたりはしなかった。邪険そうに扱いながらも、穢れた娘や呪われた子などと口にしたこともなかった。
 手を上げるのも、蔑みの言葉を投げつけてきたのも、他の誰かだ。