「香夜、逃げなさい。ここは食い止めておくから」
「でも、何故――」

 早口で告げた養母に何故助けてくれたのか聞こうとするが、その前に鈴華の金切り声が響いた。

「お母様!? 何故その子を庇うの!?」
「鈴華……お前のためでもあるんだよ?」
「どうして……分からないわ、お母様!」

 母に裏切られた気分になったのだろう。鈴華は幼子の様にいやいやと首を横に振った。

「落ち着いて、少し下がっていなさい。あなたの母まで殺しはしませんから」

 柏は面倒そうに眉を寄せつつも、口調だけは優しげに言い鈴華を下がらせる。
 そして冷徹な目をこちらに向けた。炎のように赤いのに、ぞくりとする冷たさがある。そこに躊躇いなど欠片もなかった。

「どいてください、と言っても無駄の様ですね」

 話し合いの余地もなくそう言ってのけた柏は、また火の玉を出現させて香夜に向かって投げつける。

「くっ!」

 そしてまた養母が結界でそれを防いでくれた。

「お養母様!?」
「早くっ! お逃げなさい! あなたは月鬼の宝――いいえ、華乃(かの)の大事な子。あの子が亡くなったとき、私は何が何でも守ると決めたのだからっ!」

 華乃とは母の名だ。友人だとは聞いていたが、それほどに仲が良かったのだろうか?
 いや、それよりも何故ここまでして自分を守ろうとしてくれるのか。
 今まで厳しく当たってきたではないか。邪険に扱ってきたのではなかったのか。