呟きに言葉が返ってくるとは思わなかった鈴華は驚き、声の主をすぐさま確認する。
 少し離れた場所にいつの間にか佇んでいたのは、燦人達が乗ってきた自動車の運転手だった。

 燦人の紹介では遠縁の者だと聞いたが、日宮の姓も名乗っていなかったため立場としては低いのだろうと思い特に名を覚えようともしていなかった。
 三十路は超えていると思われる容姿。何だかんだ言っても鬼の一族であるからなのか、それなりに魅力的な顔立ちはしていた。

「変転も出来ないほど弱体化した月鬼の一族の血を取り入れようなどと……全くうちの御当主様は何を考えているのやら……」

 鈴華の言葉に同意するような(げん)だったので味方かと思いきや、続いた言葉は月鬼の一族全てを貶める様なものだった。

「……突然現れたかと思ったら、随分と失礼な物言いをなさるのね? 日宮家の縁者でも、遠縁ともなれば礼儀もなっていないのかしら」

 失礼には失礼で返す。鈴華は冷笑も加えて運転手の男を見た。
 それで僅かでも男が悔し気な表情を見せれば鈴華の気も幾分晴れただろうが、男は嘲りを少し隠しただけで「これは失礼した」と謝罪の言葉を口にするのみ。

「……本当に失礼だわ。私、そんな方と話すことなどありませんので」

 面白くない鈴華は男の相手をすること自体が嫌になってすぐにこの場を去ることにした。
 だが、男の方は鈴華に用があるらしく引き留められる。

「お待ちください。あなたとて、あの娘が日宮の嫁になるのは嫌なのでしょう?」

 思わず、足を止めてしまった。
 確かに、その点のみなら男と同じ思いと言えなくはない。