ばんっと派手な音を立てて障子戸を開いた鈴華は、そのまま縁側から庭に下りた。

(全く! どういうつもりなのかしら)

 何もかもが腹立たしくて、草履で土を踏み鳴らすように歩く。
 宴で舞を披露した後、皆が自分に期待しているのが分かった。
 鈴華自身も、自分こそが選ばれるだろうと思っていた。
 初めて燦人を見た瞬間からその美しさに心を奪われた。
 この美しい人の隣に立つのは自分が一番ふさわしいのではないか。
 すぐに、そんな思いが頭の中に浮かんだ。

 そして宴の席では、案の定燦人は舞を披露した誰をも選ばなかった。
 その瞬間確信した。やはり彼が求めていたのは自分だったのだと。
 父は子煩悩だから自分を手放したがらないが、日宮の次期当主の妻ならば名誉なことだと思ってくれるだろう。
 跡取りの問題はあるかも知れないが、自分以外ならば誰がなっても同じだろう。
 だから、選ばれるために舞を披露して燦人の下へ戻ったのに……。

 ドンッ
 鈴華は思い切り、大きな松の幹に拳を打ち付ける。
 今思い出しても腹立たしい。(はらわた)が煮えくり返るほどに。
 皆も期待する中、燦人の下へ戻り自分の舞はどうだったかと聞いた。
 貴女こそ私の妻になる(ひと)だという言葉を期待して。
 なのに、燦人の視線は自分ではなくよりにもよってあのみすぼらしい香夜に向かっていて……。
 あろうことか自分を無視してあの娘の下へ行ってしまった。

(しかも、あんなみすぼらしくて貧相な香夜が燦人様の妻!? 有り得ないでしょう!?)

 それでもはじめ、周囲の反応は鈴華と同じものだったから良かった。
 香夜が選ばれるなどあり得ない。あの娘を嫁に行かせるなど月鬼の一族の恥だ、と。