呆れられてしまったのだろうかと思いそろそろと彼の表情を伺い見た香夜は、そのまま息を止めることとなる。
 その美しい顔には、困ったような、でもとても嬉しそうな笑みが浮かべられていたのだから。

 しかも何故かその目には少し意地悪そうな色も浮かんでいる。

「そうか……参ったな」

 形の良い唇が、確かな熱を込めて続きを口にした。

「そんなことを聞いては、付け入りたくなってしまうな」
「っ! っ? っ!?」

 この方は一体何を言っているのだろう。

(付け入るって何? え? どういう意味の言葉だっけ!?)

 もはや言葉の意味すら分からなくなってきた。

「……燦人様」

 その様子を今まで黙って見ていた炯が、するりと入り込むように言葉を発する。

「このままでは本当に熱が上がってしまわれそうです。そろそろお暇いたしましょう」
「ん? ああ、そうだね」

 炯の言葉に同意した燦人は、名残惜しそうに香夜を見ると「では、また明日様子を見に来るよ」と言い残し部屋を出て襖を閉じた。