「その、親のいない娘など貴方のような方の妻には相応しくありません。しかも穢れた娘などと言われるような私なんて――」

 そこから先は口を開けなくなってしまった。
 燦人の指が、そっと香夜の唇を閉ざしてしまったから。

「自分を卑下する言葉を口にするものではないよ。それに私は貴女以外を妻にするつもりはない」
「え……?」
「すぐに気を失ってしまったから覚えていないのかな? 言っただろう? ずっと求めていた、と」

 言われて思い出す。
 そう言えばそんな言葉を聞いた気がする。

「八年前からずっと求めていたんだ。やっと会えた。もう離すつもりはない」
「っ!?」

 語る燦人の瞳に確かに自分を求める熱を感じて、どうしていいか分からなくなる。
 誰かに優しくされることすらなかったというのに、異性にこのような眼差しで見つめられたことなど無い。
 心臓がドクドクと早くなって、全身が熱くなってきた。

「ん? 顔が赤くなってきたね? すまない、また熱が上がってきてしまったかな?」

 香夜の唇から指を離し、心配そうに燦人は眉を下げる。
 そんな優しい彼に心配を掛けたくなくて、香夜は戸惑いながらも口を開いた。

「い、いえ……。その、これは熱が上がったのではなくて……。殿方にそんな風に見つめられたことが無いので……その……」

 恥ずかしいのです、と最後は消え入るように口にする。
 すると燦人は黙り込んでしまった。