「その……貴女が寝ている間に里の者から貴女のことを聞いた」

 眉尻を下げ、悲しそうに揺れる目を見れば何を聞いたかは想像できる。
 呪われた子。穢れた娘。
 そんな言葉も聞いたのだろう。

(それで私のために悲しんでくれるなんて……優しい方なんだな)

 しばらく触れていなかった優しさに、僅かに心が温かくなるのを感じた。

「八年前何があったのかも……」

 そう言葉を告げられて、ああ、と力が抜ける。
 両親がいないことも聞いたのだろう。
 そして、流石に親のいない娘を嫁には出来ないと思ったのかもしれない。
 一応長が養父ではあるが、彼は自分を娘などと思ってはいないのだから。
 いいのだ。元々夢か幻かと思っていたことだ。
 ここは一思いにはっきり告げて欲しい。
 そう覚悟を決めて燦人の言葉を待っていると……。

「……辛い思いをしたね」

 労わるようにそう口にした燦人は優しく香夜の頭を撫でる。
 瞬間、凍らせ続けてきた心にある氷の壁に、ピキリとヒビが入った気がした。

「……え? あの……それだけ、ですか?」
「それだけ、とは?」

 不思議そうに聞き返される。