だが、それも久しい話。
 長い月日が経ち、地上に適応していったからなのだろうか。かつての美しさは失われていた。
 今ではかつての美しさに固執して色素の薄い者を尊ぶだけの一族となり果てている。
 香夜の灰色の髪も薄いと言えばそうなのだが、茶髪茶眼が多い中では異様にしか映らなかった。

「いくら色が薄いとはいえあんなみすぼらしい色ではねぇ……」

 そう言って嘲笑したのは誰だったか。
 言われ過ぎてもはや初めに言ったのが誰だったのかも分からない。

(両親は黒髪に焦げ茶の目だったと思うんだけどな……?)

 うっすらと残る記憶を呼び起こす。
 八年前、当時十歳だった香夜一人を残してこの世を去って行った両親。
 灰色の髪を持って生まれきた香夜を心から愛してくれた人達だ。

 事故で崖下に落ちてしまった荷馬車。
 ほぼ即死だった両親と違い、香夜だけはどういうわけか無事だった。
 香夜が蔑まれ疎まれるのはそういったことも原因になっている。

「両親の命を奪って生き残った娘」

 と。

 みすぼらしい髪の色は呪われた証なのだと。
 当時幾度も言われた言葉を思い出し、手が止まっていることに気付く。

「早く掃除終わらせなきゃ」

 頭を振って嫌な記憶を振り払い、呟いた。
 こんな調子では本当に昼食に間に合わない。
 そこからあとは、一心不乱に掃除に精を出した。