体育祭当日。
運動が苦手な私だけど、体育祭の雰囲気自体も苦手だった。
みんなが一丸となって優勝目指す、その中に私は入っていないような感じがしてしまう。
どうしても出ないといけない大玉転がしだけ出て、図書室に向かおうか迷っている時だった。
クラス対抗のリレーの時間になったようで、場内が騒がしくなる。
この熱気に対し、同じ熱量で応援できない私に引け目を感じて、その場を後にしようとした時。
「鈴城先輩、リレーでアンカー走るらしいよ」
「えー、見なきゃじゃん!!」
先輩、走るんだ…
ちょっとだけ、見てみたいような気がした。
なんでだか分からないけど、いつも話している人が表舞台で活躍しているところを見てみたい感覚。
ああ、みんなこんな感じで応援しているのかな、と思った。
一番走者が走り始めると、校庭内はより一層、騒がしくなった。
こんなに、まじまじと競技を見るのは初めてだった。
バトンは次々と渡され、鈴城先輩が走り始める。
改めて遠目から見ると、王子様みたいなルックスだ。
「きゃーー!先輩頑張ってーー!」
「鈴城くーん!」
黄色い声援とは、まさにこのことなんだろう。
先輩は運動が得意なようで、ぐんぐんと周囲の人と距離を広げる。
と思ったら後ろから、すごいスピードで次々と追い抜いてくる人がいた。
その勢いに押されて、鈴城先輩が抜かされそうになる。
ゴール直前、抜かされる、と思ったとき
「先輩、頑張って」
思わず小さな声が漏れていた。
自分でもびっくりだ。
声を出した一瞬、先輩と目が合った気がした。
周りの声援の甲斐あってか先輩は見事、1位をキープしながらゴールした。
この光景を見て、ほっとしている自分に驚きながらも、これまで経験したことのない感情を手に入れたみたいで、嬉しくなった。
体育祭を抜け出すのは少し罪悪感があるけど、先輩に会って話したい。
体育祭中に図書室の鍵が開いているのかどうかは分からないけど、図書室に向かうことにした。