また次の日、先輩は図書室に現れるかと思っていたけど、先輩は現れなかった。
きっと面白い本が1冊読めたから、それで満足したんだ。
今度こそ先輩は、もう図書室に来ない気がした。
と思っていた次の日。
先輩は図書室に現れた。
ただ、今回は図書室の扉が静かに開けられた。
先輩が入ってきたことに気づかず、読書に集中していると
「あっ、この本、この前オススメしてくれた作家さんの本じゃん」
と先輩が声をかけてきた。
びっくりして私は
「わっ!!」
と大声を出す。
すると先輩は声をあげて大爆笑している。
「ひゃははは!反応おもしろ」
今日の先輩の笑顔は、素が出ている感じがした。
「もう!そんなに笑わないでください。びっくりしたんです」
「ごめん、ごめん。ね、もしかしてその本、俺にオススメしてくれようとしてた本?」
机に載せてある紙袋の中から私が持ってきた、たくさんの本が入っているのが見えている。
図星だった。
「違います。今日は家から持ってきた本が読みたかったんです」
「へー。じゃあ、そういうことにしとこ」
先輩は私を見て、ニャッと笑う。
「昨日は紅葉ちゃんが教えてくれた作家さんの本、本屋さんで探してたんだ」
「何ていうタイトルの本ですか?」
「えーっとね…」
先輩が取り出した本は、私も持っている本だった。
なんなら、先輩にオススメしようとしていた本の中に入っている。
「この本も面白かった!でも紅葉ちゃんも持ってたんだね。貸してもらえばよかった」
先輩はチラッと紙袋の中を見る。
嘘をついたことがバレている気がして恥ずかしくなった。
「なんで私に話しかけてくるんですか?」
話を逸らそうとして、変なことを聞いてしまった。
「紅葉ちゃんと、もっと仲良くなりたいから」
先輩が真っ直ぐな瞳で私を見つめる。
そんなふうに見つめられると、なんと返せばいいのか、また分からなくなってしまう。
「そういえば、もう少しで体育祭だね」
先輩も少し気まずく思ったのか、急に話を変えた。
「やだな…」
思わず私の本音が漏れてしまった。
「あれ?紅葉ちゃん、もしかして運動嫌い?」
私は大の運動音痴で、体育祭は本当の本当に大嫌いだった。
みんなに迷惑をかけないように、極力クラス対抗物には出ないようにしている。
「すっっっごく嫌いです」
力を込めて言う私を、先輩は面白そうに笑う。
「そうなんだ。じゃあ、体育祭の日、出番ない時間あったら図書室で話してようよ」
先輩らしくない発言だと思った。
人気者の先輩だから、体育祭でも引っ張りだこに違いない。
「体育祭抜け出すなんて、サボるみたいでよくないと思います」
体育祭をサボりたい気持ちはあるのに、本心とは反した真面目な言葉が口から出る。
「この紙袋に入ってる本、貸して。次、体育祭のときまでに読んでおくから」
先輩は私の言っていることなど聞こえていないようだ。
私は机の上にある、本が入った紙袋を先輩に渡した。
先輩はその紙袋を受け取ると、満足気な顔をして図書室から出て行った。
体育祭の日…どうしよう。