と思っていたら、次の日も先輩はやって来た。

いつものように椅子に座り本を読んでいると、図書室の扉がガラッと開いた。
「やっぱり今日も居た!オススメの本教えて」

そう言い、先輩は私の隣に座った。

「オススメの本って…一概にこれって勧めるのは難しいです」
誰かに本を勧めたことなんて、一度もない。

「じゃあさ、あんまり本読んだことない人でも読みやすい本教えて。本読んでみたいんだけど、周りに読んでる人いないから聞けなくて」

うーん、と考え込んで、とりあえず新作の万人受けしそうな読みやすい本を勧めた。

「ありがとう。読んでみる」
先輩は、とても嬉しそうだ。

本の情報を聞けて満足なのか、「じゃあね」と言い、図書室から去った。

何となく、先輩はまた図書室に来るような気がした。















次の日、私の予想通り先輩は図書室に来た。
図書室に入るなり
「あの本、すごく面白かった!!」
と大声で私に話しかけてきた。

幸い、いつものように図書室には私1人だったからよかったものの、それでも少し恥ずかしい。

「それはよかったです。1日で読んじゃったんですか?」

「うん。1日で読めた。こんなの初めて。前買った本は5ページで挫折した」

「え?何の本読んだんですか?」

「ドストエフスキー」

「え…あれは難しいから初心者向きじゃないと思います」
斜め上の回答で、思わず笑ってしまった。

「あっ、やっと笑ってる顔見れた」
先輩は私の目を見て嬉しそうに笑う。

またもや私は何と反応したらいいか分からなくなってしまった。
この人と一緒にいるとペースが乱れる。

「困ってる顔もかわいい」
そう言いながら、頭を撫でようとする先輩の手を

「だから、距離が近いです!」
と言って私は避けた。

この人は天然の女たらしなのか、それとも分かっていてやっているのか…
どっちか分からない。

「ごめんごめん。小さくて小動物みたいだからつい…」

私の反応に傷ついている様子はない。


「また教えてね」
そう言って、先輩は図書室から出て行った。