「今日は体育祭だよ。行かなくていいの?」

「先輩こそ。先輩がいないと盛り上がらないんじゃないですか?」

「えっ?なんで?」


私は学校内1番人気の鈴城 梨久(すずしろ りく)先輩に気に入られている。

きっかけは何気ないことだった。



※※※

私は図書室が好きだ。
人と話すのが得意ではないから、休み時間はいつも図書室にいる。
クラスの子たちはみんないい子だけど、一緒にいると気を使い過ぎてしまい、どっと疲れてしまう。
なぜ疲れてしまうのか…

どうも、私は人と会話をすることが苦手なようで、ノリが悪い、というか真面目過ぎる返事をしてしまうらしい。
もっと楽しい会話ができれば、いいんだろうなと思うけど…
それもそれで疲れてしまうから、一人で本を読んでいたほうが楽だ。

いつものように図書室で本を読む。
昼休みの図書室は、人気がない。
だいたい私一人だから、自由きままに過ごせる。
今日もそんな昼休みを過ごせると思っていた……のに。


定位置に座り本を読んでいると、いきなりガラッと扉を開ける音がした。
先生かと思い、扉の方に視線を向けると、一人の男子生徒だった。
それも、学校で人気者の鈴城(すずしろ)先輩。
学校内の人間関係に疎い私でも知っているくらいの人だ。

「あ、よかった。ちょっとだけここに居させて」

そう言って、私の近くに座った。

少し茶色がかった髪に、ぱっちりした目。
近くで見ると、女の子から人気があるのも頷ける。

人と話すのが苦手な私は緊張してしまい、なんと返事をしたらいいのか戸惑ってしまった。
またノリの悪いことを言ってしまうかもしれない。

「何の本読んでるの?」

戸惑っている私をよそに、先輩は私が読む本に興味を示している。
私が本のタイトルを言いかけたとき、外から女子たちの騒がしい声が聞こえた。

「鈴城先輩、どこ行ったんだろ」

「こっちの方に行かなかった?」


どうやら先輩を探しているらしい。
先輩の顔を見ると、とても嫌そうな顔をしている。

すると、またもや突然、図書室の扉がガラッと開いた。
と同時に、先輩が開かれた扉を背にして私を抱きしめた。

一瞬、何が起こったか分からなかった。



扉を開けた女子生徒2人は、カップルが図書室でイチャイチャしてると勘違いしたらしく、
「きゃっ!ごめんなさい!!」
と言って、勢い良く扉を閉めた。