わたしから何かを聞いたところできっと彼は大丈夫だと言うだろう。

だから、彼から話し始めるまで待つことしかわたしにはできない。
櫂はそういう人だということを知っているから。


「……難しいんじゃないかって言われた」


しばらくの沈黙の後、彼が蚊の鳴くような声でそう呟いた。


「写真家として生きていくのは簡単な事じゃないからって」


その少し震えた声には悔しさが滲んでいた。

きっと先生に現実的なことを言われたのだろう。

大人はわたしたちよりも長く生きているから夢を叶えるという大変さをよく知っているんだと思う。

先生だって、完全に否定したいわけじゃないはずだ。
でも彼の夢はあまりにも狭き門だから思うところがあるのかもしれない。


「……そっか」

「昨日、親にも相談したら『写真は趣味なんでしょ?趣味や好きな事で生きていけるほど世の中は甘くないの。現実を見なさい』って言われてさ。悔しくて、でも言い返せなくて。どっかで自分もわかってたからかな。黙って自分の部屋に籠ることしかできなかった」


何も、言えなかった。