今まではこんなに感傷に浸ることなんてなかったのに終わりが近づいていることを知っていると人って普段考えないようなことも色々と考えてしまうんだな、と思う。


―――バンッ!


ものおもいにふけっていると後ろから勢いよく扉が開く音がした。
反射的にそちらに視線を向けると、息を切らして肩を揺らした櫂が立っていた。

その瞳はどこかおぼろげで、いつもとは違っていて何かあったことくらい聞かなくてもわかるほどだった。


「……どうしたの?」

「……美桜?」


今にも消え入りそうな掠れた声でわたしの名前を呼んだ櫂。

無我夢中で走ってここまで来て、わたしの存在にも気づかないくらい何かを考えていたんだろう。


「まあ、こっちに来てここ座りなよ」


二者面談で何かがあったんだろう。
それくらい今のわたしにだって容易に予想できた。

じゃないと、あの聖人君主みたいな櫂がこんなにも取り乱したりすることなんてない。

彼は言われた通り、わたしの隣に静かに座った。

ただ何も言わない。二人の間に沈黙が流れるだけ。

わたしはただ静かに風を感じていた。