テーブルにぽつんと置かれたアップルパイを見つめながらゆっくりと体を起こして、テーブルの前に座りベッドを背もたれにするようにもたれる。
昨日、母親にドーナツショップで自分の分も買ってきていいから新作のドーナツを買ってきてほしいと頼まれ出掛けたのはよかったものの、無意識のうちにトレーに乗せていたのは特に好きでもないアップルパイだった。
「なにそれ、変なの。櫂が甘い物食べるって珍しいし」
「うん、俺もそう思う」
昨日もさも当たり前のようにアップルパイへ手を伸ばしていたことに自分が一番信じられなくて驚いた。
自分の好きなものがアップルパイなわけがない。
だって、俺は甘いものがそんなに好きじゃないから。
それなのにあまりにも自然と取ってしまったことに動揺を隠すことができず、そのまま購入してしまったのだ。
「え、なに。怖いんだけど」
「……でもなんでかわかんねえけどアップルパイを取るのが自分の中で当たり前になってた気がするんだよな」
そんなこと、あるはずがないのに。
なんで俺は好きでもない食べ物なんて選んだのだろう。