「答え合わせを一つしてもいいですか?」

「どうぞ」

「伯爵は先程これは"王家の暗殺"と言いましたよね。伯爵は、ご存知だったのですか? 7番目のお兄様がスタンフォード王家の血を引いていない、と言う事を」

 ベロニカは金の目を瞬かせ伯爵に不思議そうに尋ねる。

「呪われ姫である私はこの呪いと血の制約で王家に近しいその血を引く人間を見つけることができます。でも、それを口外したことはありません」

 伯爵にも言った事のないベロニカの秘密。おそらくこれを知っている人間はいない。先代陛下ですら知らないはずだ。
 正統な継承者の血を引く者。それが分かればきっとあの人(先王)は呪われ姫以外にも暗殺者を送り込み、粛正しようとしただろう。
 そう考えたのはベロニカだけではなかったようで、母方の生家が力ある家系の人間であればその秘密ごと守られているようであったし、そうでなければいつのまにか存在を奪われいなくなっていた。
 ベロニカの母は身分のない平民の出で、呪われ姫でなかったなら自分も亡き者にされた側の人間だっただろうとベロニカは思う。
 だから、ベロニカは決して口には出さなかった。
 見分けられる事も。偽物が誰であるかも。

「本人ですら知り得ないその血の秘密を伯爵はどうやって暴いたのですか?」

「俺にも確信があったわけではありません。憶測の域をでないただの当てずっぽうですよ」

 ベロニカが血縁を見分けられるという事も初耳である伯爵は、そう言って肩を竦める。

「ただしレグル殿下に関しては限りなくその可能性が高い、とは思っていましたが」

 その話をレグルとした事はない。だがおそらくレグル自身自分は正統な継承者ではないと気づいていたのだろう。でなければ人に慕われ能力のある彼がわざわざ呪われ姫を次代の王に据えようなどと考えるわけがない。
 だが、それは確かめようのない話。
 これから先もきっと自分達の間でその話題が交わされる事はないのだから。

「どうして、陛下はこんなにも多くの子を望んだのか? 俺にはそこが疑問でした」

 13番目に王の子として生まれた子は呪われる。それが分かっているはずなのに、あえてそうした。
 そこには陛下なりの理由があったのではないか、と伯爵は思う。

「色欲に負けただけでは?」

 しらっとした顔でそう切り捨てるベロニカに苦笑しつつ、

「もしそうだとして"避妊"という方法を陛下が知らないわけがないでしょう」

 上流階級の人間であれば当然施される教育について述べる。
 現に第3子である王女様から第4子目までの間が異様に空いている。
 そして第3子までは正妃との間の子。それ以外は、側妃や愛妾との間の子で歳の差がかなり近い。
 継承権を持つ子が多くいれば国を分つ火種になりかねない。
 そんなリスクを取ってでも知りたかった何か。

「俺は先王のことを直接知っているわけではないのでこれはあくまで推察です」

 伯爵はそう言って話を続ける。

「"果たして本当に自分はスタンフォード王家の血を引いているのか?"先代の陛下が知りたかったのは、それではないかと思うのです」

 上手くいかない事が立て続けに起これば、誰かのせいにしたくなるのは人間の性だ。
 だから先代陛下は禁忌を犯してでも知りたかったのだろう。
 自分は本物か、と。知ったその事実を彼がどう受け止めたのか、知る術はないのだが。