『探して下さい』
見慣れた綺麗な筆跡でそう簡潔に書かれたカードを手に取り、キース・ストラル伯爵は苦笑する。
「随分と主張の激しい家出ですね、姫」
いつも通り淡々とした口調でつぶやかれた独り言に答えるかのように、伯爵の肩に乗っているオレンジ色の飛竜がプキュと鳴いた。
どうやら同意らしい。
「アンバー、姫様の所在を知らないか?」
アンバーと呼んだ飛竜の事を撫でながら伯爵はそう尋ねるが、アンバーはキューと鳴いて首を振る。
細い肢体をクルクルと伯爵の腕に絡めたアンバーはそれよりも遊んでくれとばかりに伯爵にアピールする。
アンバーの琥珀色の瞳をじっと見ながら、伯爵はため息を漏らす。
「アンバー、お前もう少しこの離宮の主人を尊重しないと本当に煮て焼いて喰われるぞ」
この離宮の主人はアンバーが毒々しい色をした卵だったときから食べる気満々だったのだ。
自分に離宮で飛竜の飼育を許可した今ですら、アンバーの事を頑なに『やきとり』などと呼ぶ、先日の拗ねた様子の彼女を思い出し、やや強めの口調でアンバーの事を嗜める。
「ぴぃー!!」
お前はどっちの味方なのかと言わんばかりのアンバーの抗議の鳴き声に苦笑しながら彼女を撫でた伯爵は、
「今日はダメ。俺はベロニカ様の専属暗殺者だから」
たまには"仕事"しないとなとアンバーを手から離して、いつもの口調でそう言った。
この国の王家は呪われている。
『天寿の命』
寿命以外では死ねなくなる呪い。
それがどんな呪いで誰が呪いを被るのかわかっているにも関わらず、今代の王家には『呪われ姫』が存在する。
その人物こそが現在伯爵がこの離宮内で捜索中の13番目の王女様、ベロニカ・スタンフォードその人である。
13番目に王の子として生まれ、例に漏れず呪われている彼女には、莫大な褒賞金がかけられている。
が、数多の暗殺者を送り込まれながら、彼女は今日も生きている。なぜなら暗殺するために突きつけられる刃物は呪いの効果で砂鉄になって形をなくし、食事に注がれた毒は甘いシロップに早変わり。
一向に死なない呪われ姫を暗殺すべく陛下が出した傍迷惑な御触れ。
『伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ』
それに従って仕方なく離宮に忍び込み、ベロニカに気に入られて専属暗殺者になってしまった伯爵は、今は自ら進んでベロニカの元に足を運んでいる。
放って置けないのだ。
離宮に打ち捨てられたベロニカが、見捨てられた自分達と重なって。
そんな事を回想をしながら、伯爵は手帳を片手に慎重に離宮内を捜索する。
「探してください、ね」
伯爵が全然遊んでくれないと頬を膨らませていた昨日のベロニカの様子から察するに素直に呼んだところでまず出てこない。
このかくれんぼはおそらく自分が彼女を見つけられるまで続くのだろう。
「一応、俺これでも反省はしているんですけどね」
最近アンバーにばかり構っていた自覚はある。
が、言い訳をさせてもらえるならそれはアンバーと同種の飛龍に関する情報が全くなく、餌はおろかこの個体の正常な状態というものが分からないことが原因だ。
危険なものは排除される。だからこそアンバーを手元に置くならば、人に害をなす事なく適切に飼育するための方法を探らなければいけない。
「なんて、寂しがりのベロニカ様に通じるわけもないか」
クスッと笑った伯爵はさて、彼女はどこにいるのかと考えながらボロボロの離宮内を捜索を再開した。
見慣れた綺麗な筆跡でそう簡潔に書かれたカードを手に取り、キース・ストラル伯爵は苦笑する。
「随分と主張の激しい家出ですね、姫」
いつも通り淡々とした口調でつぶやかれた独り言に答えるかのように、伯爵の肩に乗っているオレンジ色の飛竜がプキュと鳴いた。
どうやら同意らしい。
「アンバー、姫様の所在を知らないか?」
アンバーと呼んだ飛竜の事を撫でながら伯爵はそう尋ねるが、アンバーはキューと鳴いて首を振る。
細い肢体をクルクルと伯爵の腕に絡めたアンバーはそれよりも遊んでくれとばかりに伯爵にアピールする。
アンバーの琥珀色の瞳をじっと見ながら、伯爵はため息を漏らす。
「アンバー、お前もう少しこの離宮の主人を尊重しないと本当に煮て焼いて喰われるぞ」
この離宮の主人はアンバーが毒々しい色をした卵だったときから食べる気満々だったのだ。
自分に離宮で飛竜の飼育を許可した今ですら、アンバーの事を頑なに『やきとり』などと呼ぶ、先日の拗ねた様子の彼女を思い出し、やや強めの口調でアンバーの事を嗜める。
「ぴぃー!!」
お前はどっちの味方なのかと言わんばかりのアンバーの抗議の鳴き声に苦笑しながら彼女を撫でた伯爵は、
「今日はダメ。俺はベロニカ様の専属暗殺者だから」
たまには"仕事"しないとなとアンバーを手から離して、いつもの口調でそう言った。
この国の王家は呪われている。
『天寿の命』
寿命以外では死ねなくなる呪い。
それがどんな呪いで誰が呪いを被るのかわかっているにも関わらず、今代の王家には『呪われ姫』が存在する。
その人物こそが現在伯爵がこの離宮内で捜索中の13番目の王女様、ベロニカ・スタンフォードその人である。
13番目に王の子として生まれ、例に漏れず呪われている彼女には、莫大な褒賞金がかけられている。
が、数多の暗殺者を送り込まれながら、彼女は今日も生きている。なぜなら暗殺するために突きつけられる刃物は呪いの効果で砂鉄になって形をなくし、食事に注がれた毒は甘いシロップに早変わり。
一向に死なない呪われ姫を暗殺すべく陛下が出した傍迷惑な御触れ。
『伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ』
それに従って仕方なく離宮に忍び込み、ベロニカに気に入られて専属暗殺者になってしまった伯爵は、今は自ら進んでベロニカの元に足を運んでいる。
放って置けないのだ。
離宮に打ち捨てられたベロニカが、見捨てられた自分達と重なって。
そんな事を回想をしながら、伯爵は手帳を片手に慎重に離宮内を捜索する。
「探してください、ね」
伯爵が全然遊んでくれないと頬を膨らませていた昨日のベロニカの様子から察するに素直に呼んだところでまず出てこない。
このかくれんぼはおそらく自分が彼女を見つけられるまで続くのだろう。
「一応、俺これでも反省はしているんですけどね」
最近アンバーにばかり構っていた自覚はある。
が、言い訳をさせてもらえるならそれはアンバーと同種の飛龍に関する情報が全くなく、餌はおろかこの個体の正常な状態というものが分からないことが原因だ。
危険なものは排除される。だからこそアンバーを手元に置くならば、人に害をなす事なく適切に飼育するための方法を探らなければいけない。
「なんて、寂しがりのベロニカ様に通じるわけもないか」
クスッと笑った伯爵はさて、彼女はどこにいるのかと考えながらボロボロの離宮内を捜索を再開した。