「鶏卵以外食べてはいけないという法律はないのです!!」

 だが、ベロニカ的にはそうではないらしい。何をもってベロニカがいけると思ったのかは不明だが、彼女は食べると言って譲らない。

「いや、そうかもしれないけど、何の卵かも分からないのに」

 どうやって食べる気だよと嫌そうにつぶやく伯爵に、

「嫌ですねぇ、伯爵。大抵のモノは焼くか煮るかすれば食べられるんですよ」

 ドヤーっとベロニカは言い切り、私こう見えても料理は得意なんですと胸を張る。
 そうかもしれないけど、そうじゃない。
 ツッコミたいところはそこじゃない! と頭を抱えた伯爵は、

「第一毒のある生物だって可能性もあるじゃないですか?」

 食べる気満々のベロニカに直接的に待ったをかける。

「それ私に言っちゃいます?」

 寿命以外では死ねない呪われ姫ですよ? と止められる意味が分からないとベロニカは首を傾げる。
 そう彼女はその身にかけられた呪いの効果で、毒は甘いシロップに、銃口を向けられれば引き金を引いた瞬間その銃はクラッカーに早変わり。
 命の危機は全て無効化してしまうのだ。

「はぁぁ〜何作って食べようっ。貴重なタンパク質! こんなに大きな卵さんなんて夢が膨らみますねぇ」

 あまーい玉子焼き? 目玉焼きにしてシンプルにお塩? 温泉卵も捨てがたい! なんてワクワクと語るベロニカを見て、多分今までもこうして来たんだろうなと察した伯爵はベロニカを説得する事を断念した。

「伯爵は何が一番お好みですか?」

「……食べないという選択肢が欲しい」

 俺は呪われてないんで、毒があったら普通に死ぬから!! と全力で主張する伯爵に、

「もう! 伯爵のヘタレ。じゃあ私が先に毒見しますから」

 これで解決ですね! とベロニカは話をまとめようとする。

「毒効かない人間の毒見ほど信用ならないモノはねぇよ」

「もう、伯爵ってばさっきから文句ばっかりじゃないですか!!」

 せっかく伯爵と食べようと思って大事に取って置いたのになどと文句を述べるが伯爵も自身の命がかかっているので全力で回避を試みる。
 ダメですと伯爵がベロニカから卵を取り上げたところで、伯爵は卵の異変に気づく。

「…………ベロニカ様、コレの保管方法聞いていい?」

「え? 大事に大事に肌身離さず一緒に生活してましたけど」

 返してくださいとぴょんぴょん跳ねながら、暗殺者さんに割られたら困るのでとベロニカは話を続ける。

「……比喩ではなく?」

 せめて冷暗所保管しとけよと思ったが、とりあえず伯爵は事実の確認を急ぐ。

「お風呂も寝る時も一緒です。やむを得ず離れる時はうちのネコちゃん達に揉まれてました」

「その成果が出たみたいですよ?」

 伯爵がそう言った瞬間、ピキピキピキ……パカッと卵が割れた。

「ぴぃー」

 卵からひょこっと顔を出して小さく鳴いたその生物はふわぁぁっと欠伸をしてキョロキョロと辺りを見まわし、伯爵を見つけて首を傾げる。

「おおーかわいい」

 出てきたのは警戒色の卵から孵ったとは思えないほど可愛いオレンジ色の飛竜だった。