「またそんな子どもみたいなことを」

「……だって、伯爵全然恋人っぽいことしてくれないじゃないですか」

 とベロニカはそう訴える。
 ベロニカだっていくら冷遇されて命を狙われていても自分が王族で伯爵とは身分差がありすぐに婚約も結婚もできない事くらい分かっている。
 いや、たとえ身分差がなかったとしても呪われ姫である以上、きっと結婚はおろか離宮から出て暮らすことすら許可されないだろうと思う。
 だからこそ、と思ってしまう。

「私が正式に伯爵の妻になるなんて夢のまた夢だって、分かってます。ならせめてイチャイチャしたいです!」

 と伯爵に向かってベロニカは全力でそう主張する。

「私、花盛りの16歳ですよ! 陛下が呪いの事なんて忘れてうっかりお手付きしちゃうくらい絶世の美女のお母様に瓜二つの可愛い私を前にして、うっかり手を出しちゃうくらいないんですか!!」

「いや、普通に手を出しちゃまずいでしょ。アンタまだ未成年のくせに俺の事うっかりで犯罪者にする気ですか?」

 いやいや、ないからと伯爵はベロニカの主張を即却下する。

「伯爵のヘタレ。そんなのバレなきゃいいんですよ」

「未成年じゃなくても王家の姫君になんて手出ししませんよ。そんなことして俺が処刑されて伯爵家が取り潰されでもしたら路頭に迷う奴何人もいるんで」

 無理なものは無理とスパッと言い切られ、ベロニカはむぅぅと拗ねる。

「……じゃあせめて、話し方崩すとか、名前呼び捨てにしてくれるとか」

「王族に不敬な態度とって莫大な慰謝料請求されても払えないので、ご容赦ください」

 うちが莫大な借金抱えてるの知ってるでしょと伯爵はベロニカの要求をことごとく却下する。

「私の事姫扱いするのなんて、伯爵ぐらいですよ」

 王族として生活するための予算すらつかないボロボロの離宮に追いやられ、仕えてくれる侍女も護衛もいないのに。

「……無駄に高い身分が憎い」

 ぼそっとベロニカは毒付いて、

「いっそのこと、呪われ姫らしく王家を滅ぼしてしまいましょうか」

 冗談なのか本気なのか分からない口調でベロニカはそんな事を口にする。

「伯爵の嘘つき。騙されました。うちの子になる? って言ったくせに」

 両思いになった後も全く態度が変わらない上に恋人らしいことすらしてくれない伯爵を前に自分だけがヤキモキする毎日を送るなんて、伯爵にプロポーズした時は想定していなかった。