伯爵はベロニカの前に傅くと、

「姫、私と一曲踊っていただけますか?」

 と、とても慣れた動作でベロニカをダンスに誘う。
 驚いたベロニカは金色の目をぱちぱちと瞬かせその手を取っていいのか迷った様子で伯爵を見返す。

「でも、伯爵、ダンス苦手なんじゃ」

「無駄な事しない主義なだけで、できないわけじゃありません。まぁ、王子じゃなくて悪いんですけど、ダンスしたかったんでしょ? 一曲くらいなら付き合ってあげます」

 曲が終わりますよ? とベロニカを促す伯爵に、

「私、実は誰かと踊った事なくて。足、踏んでしまうかもですよ?」

「いいですよ。公の場ではないですし、下手っぴでも。ちゃんとリードしてあげますから」

 遠慮するなんて姫らしくないですねと伯爵が苦笑する。

「ほら、お手をどうぞ。ベロニカ様」

 再度促されベロニカはおずおずと伯爵に手を重ね、月明かりに照らされた踊り場でダンスを踊る。

「なんだ、上手いじゃないですか」

「伯爵こそ、お上手です。あの、気持ち悪くないですか? 私なんかと手を繋いで。私、その呪われたバケモノですし」

 お世辞ではなく、ベロニカのダンスは上手く、月明かりの下で輝く銀糸の髪も彼女の金色の目もどんな宝石にも負けないくらい美しい。

「わさびくらいで撃退できる化け物なんて可愛いもんです。普段相手にしてる腹黒な化け物に比べたらずっと」

 ふっ、と笑った伯爵の顔に見惚れそうになったベロニカはつられて笑う。

「ふふ、もう少し飛ばしますよ」

 イタズラをするように楽しげにそう言ったベロニカがテンポを上げて踊り出す。
 それになんなくついていく伯爵は、くくっと喉を鳴らして笑った。

「姫、飛ばし過ぎでしょ」

「ふふ、だって、とっても楽しくて」

 笑顔は有料だ、無駄な事はしない主義、だなんて言った伯爵が、まるで子どもみたいな顔をして自分と楽しそうにダンスをしてくれるだなんて、夢みたいで。
 こんなにも心臓が踊るのはきっと、呪い以外の魔法にかかってしまったのかもしれない。
 実は伯爵は魔法使いなんじゃないかしら? ベロニカはそんな事を考える。

「本当にシンデレラになったみたいです」

 そう言って踊るベロニカが、今日会ったどの令嬢よりもキレイだと見惚れそうになったなんて、普段自分の事を振り回すこの姫にいうのはなんとなく癪なのでベロニカには言わず伯爵は心の中だけでそう思った。

 結局その後魔法の解けないシンデレラに何度も何度もダンスに付き合わされた伯爵が筋肉痛でダウンするのは次の日のお話し。