「すごいです、伯爵っ!!」

 ベロニカはドレスの裾を持ち上げ軽くふわっとその場で一回転して見せる。
 彼女が着ている衣装は元は流行から外れてしまったベロニカの母親のドレス。伯爵はそれをベースに装飾品やレースを駆使してあっという間にレトロモダンなドレスに仕立て上げてしまった。
 その上彼女の美しい銀糸の髪を綺麗に編み上げて生花で飾り、ドレスにあった化粧を施した。
 青いドレスを可憐に着こなし、カツンとヒールを鳴らして微笑む彼女はまるで絵本から出てきたお姫様のようだ。
 まぁ、ベロニカは元々本物のお姫様なのだが。
 大したことはしていないのにここまで見違えるのは、彼女の生まれつきの美貌によるものかと伯爵は美人はそれだけで5割得だなと苦笑した。

「伯爵にこんな特技があったなんて知りませんでした」

「まぁ、妹を着飾るのに慣れてるんで。うちも新品のドレスなんて何着も買ってやれないし、自分でできた方が自由度上がるでしょ」

 まぁ、プロには負けますけどといつも通りのローテンションで伯爵はそう答えるが、すごいすごいとはしゃぐベロニカが年相応の女の子に見えて、こんなに喜んでくれるならやって良かったなと無意識のうちに伯爵は微笑んでいた。

「で、せっかく着飾って舞踏会に出られるようにしてあげたのに、姫はなんでまた階段下にいるんですか? 早く会場に行かないと舞踏会終わっちゃいますよ」

 早く行けとばかりに手で払う伯爵に苦笑したベロニカは、

「中には入れません。着飾っても私は私。呪われ姫ですから。顔が割れてるので、みんな引いちゃいますよ」

 だって、私は呪われてますからと少し寂しそうに笑ったベロニカは、

「それにほら、この国の王子様はもれなく私のきょうだいで、私の事殺そうとしてる方たちですし、見つかると厄介なんです」

 金色の目を閉じて会場から流れる音楽に耳を澄ます。

「こんな素敵な格好で、ここに来られただけで十分です。伯爵、ありがとうございます」

 機嫌直りましたと満足そうにそう言うベロニカを見て伯爵は頭をガシガシとかいてため息をつく。
 本人がこれでいいと言っているのだから、これでおしまいにしてしまえばいいのだろうし、本来なら伯爵程度が一国の姫にこうするのはきっと正しくない。
 けれど、これではきっと彼女にとってのハッピーエンドではないはずだから。