美紅がカフェOliveのドアを開けると、真っ先に見えるのは計の笑顔だ。そして次に優しいテノールで「いらっしゃいませ。美紅さん、また来てくださったんですね」と声をかけてくれる。その声だけで、美紅は大学での疲れを忘れてしまうのだ。

(わぁ〜、考えてたら今すぐにでも行きたくなっちゃった!)

もう二十時を過ぎているので、カフェOliveは当然閉店している。夜も開いていたらいいのにな、と美紅が思っていたその時だった。

コツ、コツ、コツ、コツ……。

夜道に足音が響く。美紅はその時ふと、足音が二重に響いているように気付いた。一つは美紅のものだが、背後からもう一つ足音が聞こえてきている。

「ッ!」

ゾクリと背筋に寒気が走り、嫌な予感がして美紅はその場で立ち止まり、振り返る。美紅が足を止めると足音はピタリと止んだ。そして、振り返っても誰もいない。

(気のせい?)

美紅は少し早足で歩き出す。しかし、背後からはコツコツと足音がやはり響いており、気のせいではないとわかる。