「佐納さん、あなた……静流に何を吹き込んだんですか!?」

「……ただの遊び、からかいだったんだよ。だけど西条君は本気にしちゃったみたいで。」

 走ったわけじゃないのに、汗が額を伝う。

 それが顎に流れ落ちると同時に、耳を疑ってしまう言葉が聞こえた。

「……ハグとかキスとかを、香ちゃんにしちゃったって言ったんだよ。からかっただけなんだけどね。」

「っ……あなたって人は……っ!」

 どうしてこうも、厄介事にするのだろう。

 なんて言えないけど、そう思わずにはいられなくてくるっと背を向けた。

「どこ行くの、香ちゃん。」

「……佐納さんには関係ありません。」

 佐納さんは、静流の腹の底を全く分かっていない。

 一刻でも早く、静流と話をしないと……!



 そう思うのに、物事は上手くいかない。都合よく作られているわけなかった。

 佐納さんと話している内に自分が出る競技になってしまい、舌打ちをしたくなった。

 障害物競走になんて、出なきゃ良かった。つい、そう言いかける。