その場に残された帆香という女は、はたかれた頬をさすりながら香の背中をじっと見ていた。

「……香ちゃん、言うようになったねぇ。」

 ぼそっと呟いたそいつは「はぁ~ぁ。」とでかいため息を吐いてから、別の方向へと姿を消した。

 ……何だったんだ、今のは。

 あの女、香を目の敵にしていたわけじゃないのか……? あの口ぶりだと、敵対関係にある気がしたんだが……。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 香と話をしなければ。そう思ったが、俺は進めなかった。

「西条、くん。」

「……何の用だ。」

「冷たいね、相変わらず。それだけ折羽さんにお熱って事?」

「こっちの質問に答えろ。何の用で来た。」

「用なんて……一個しかないよ。」

 背後から俺を呼び止めたのは、以前香を痛めつけた女子生徒。名前なんざ覚えてない。

 その女はどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていて、視線を合わせようとはしなかった。

「こうちゃん……ううん、佐納洸丞君って知ってるよね。ごめんね、二人に迷惑かけちゃって。」