何を、香に言っている。

 そんなもの、聞くものじゃないだろ。

 ぐっと下唇を噛み締めたが、もちろん現状が変わるわけじゃない。

 香は相当動揺しているようで、声が震えていた。

「本命に、決まってるでしょ……。」

「またまた、そう言ってただ遊んでるだけじゃないの~? それに今、喧嘩してるんだって? ふふ、別れちゃったりするのかな~?」

 ……っ、何でそんな勝手を言える。

 もうダメだ。痺れを切らしかけた俺は、香を連れ去ってしまおうと考えた。

 と、同時だった。

 ――パチン!と、肌がはたかれる音が聞こえたのは。

「本当に……馬鹿な事言わないでっ! 私と静流が別れるなんてありえないし、遊んでるわけじゃない! 帆香に何が分かるって言うの……!」

「……あはは、殴られちゃったなぁ。でも香ちゃん、あたしの彼氏を奪ったのはどう説明するの?」

「私はあんたの彼氏なんかどうでもいいと思ってる。私が好きな奴は、西条静流って男だけだから。」

 キッパリ言葉に表した香は、そのまま向こう側へと走っていってしまった。