俺には、香だけでいい。香が居てくれたら、それだけで十分だ。

 そんな生き甲斐が、今まさに消されようとしている。

 誰がそれを許すか……ってだ。

『香ちゃん、怯えてたよ? 僕の告白を断ってる時も、小さく震えてたし。だから今、君が香ちゃんのところに言ってもダメだと思うなぁ。』

 あんな言葉に惑わされるな。止まるな。

 確かにそうかもしれない。……いや、その可能性が高すぎる。

 けどそれでも……香ともう一度、ちゃんと話さないといけない。

 気持ちが一方通行したら、元も子もない。

 今は放課後。会える確率は、限りなく低い。

 だがそんな事で諦めるわけにもいかず、一心不乱に香を探し回る。

 下駄箱に靴があったから、校内には居るはずだ。

 香が行きそうな場所と言えば……。

 そう考えを巡らせながら、おもむろに立ち止まった。

「久しぶりだね、香ちゃん。」

「……帆香。」

 廊下の角の向こう側から、香の声と女子の声が聞こえてきたから。

 香が居る、と分かったのはいいものの出ていける雰囲気でもない。