……息が、思うようにできない。

 掠れた呼吸しかままならなくて、肩を大きく上下させる。

 信じられない。信じたく、ない。

 ……――香、どういう事だよ……っ。

 昼下がり、屋上で過呼吸になりかける。

 けどすぐに吸入器で落ち着き、はぁ……と息を吐き出した。

『ごめん。ちょっとだけ……距離、取ろう。』

 さっき、香からそう言われた。

 別れようって言われてないだけ、まだマシなのかもしれないが……俺にとっては、絶望するくらいの言葉だった。

 自問自答したって、俺には分からない。

 俺はただ、香を離したくないだけで……何も、おかしい事なんかしてない。

 だって、そうだろう?

 誰だって好きな女が別の男と仲良さそうにしてるところを、許したくないはずだ。

 ……嫉妬に駆られてしまっても、仕方がないだろ?

 だが俺は、香に拒否された。

 数十秒前の香の表情は、とてつもなく怯えているようだった。

 滅多に怯えない、物怖じしない香が分かりやすく震えるまで怯えるだなんて……俺は相当な事をやらかしてしまったのか?