「だ…旦那様、乙葉は……」

「今頃は黒百合家だ。さっき見せたのは、『空渡ノ術(そらわたりのじゅつ)』。望む場所へと一瞬にして移動できる便利な術だ」


圧倒的な呪術の力に、和葉は腰が抜けていた。


「しかし、その代償に体に負荷がかかるため、できればあまり使いたくはない。だが、和葉のこととなると話は別。どこにいようと、俺はこの呪術ですぐにでも飛んでいく」


その話を聞いて、和葉は思い出した。


乙葉の結納で黒百合家に呼び出され、急に実家に泊まることとなったあの夜――。


『東雲玻玖…!?なぜここに!?』

『なぜと言われましても、妻の帰りが遅いので迎えにきました』

『…迎えにきただと!?貴様、今は都にいるはずでは…!』


都に宿泊していたはずの玻玖が、なぜか遠く離れた黒百合家の屋敷に現れた。