そうして、玻玖は乙葉に向かってそっと片手を伸ばす。

そのかたちは、先程乙葉が玻玖に向けたものと同じ構えだった。


その瞬間、乙葉の体が固まる。


「なっ…、なんですの…これは…!」

「お返しだ。心配しなくとも手加減はしている。しばらくはそこにいるんだな」


それだけ言うと、玻玖は身動きが取れない乙葉を残し、その場を去った。


玻玖は和葉を探し、そして見つけた。


――自らの首筋に短刀の刃をあてがう和葉の姿を。


「…和葉」


闇夜に響く玻玖の声に、驚いて振り返る和葉。

その顔は、涙に濡れていた。


「こないでください…旦那様」

「…そうはいかない。その刃物を離すんだ」

「もう…わたしのことは放っておいてください。…わたしは、旦那様を二度も騙しました。こんなわたしは…死んだほうがましです!」