「俺にとっては和葉という妻がいながら、興味のない女を屋敷に置いておくことのほうがありえない。わかったなら、俺はもう行くぞ」

「…お待ちになって!!」


和葉のあとを追おうとする玻玖に向かって、捕まえるような構えで両手を伸ばす乙葉。

すると、不思議なことに玻玖の体がピタリと止まる。


まるで、目に見えない糸に縛られたかのように動かない。


「お姉ちゃんのところへは行かせないわ!東雲様は、わたくしの術で――」

「同じ術に二度もかかるか」


乙葉の頭の中で、プツンとなにかが切れたような音がしたかと思ったら、玻玖は何事もなかったかのように手足を動かす。


「…まさか!わたくしの術を自力で解いたというの…!?」

「『神導位』という地位も舐められたものだな。これくらいの術で俺を思いどおりにできると思っているところが、…さすが黒百合さんの娘だな」