玻玖に愛されていると思っていたのは、ただの勘違いだったのだろうか。


和葉の目に涙が滲む。


『泣いてはいけないよ』


――またあの声。


和葉が悲しいとき、苦しいとき、まるで励ましてくれているかのようだった。


だが今は、耳障りでしかない。


和葉は裸足のまま外へ飛び出し、庭にやってきていた。

池には、顔のかけた月が映っている。


毎日のように2人で眺めた月。


しかし、玻玖の隣で月を眺めるのは――もう自分ではない。


黒百合家では必要とされず、玻玖からも見放されては、和葉はもうこれ以上生きる意味を見出だせなかった。


『もし、あやつを殺すのをためらったり、だれかに漏らすようなことがあれば…。そのときは、和葉。お前の命をもって償え』

『わかったな、和葉』


それでも、玻玖を殺すことなんてできない。