「和葉」


そのとき、名前を呼ばれてはっとする。

振り返ると、屋敷の角から玻玖が顔を出していた。


「だ…旦那様!お帰りなさいませ!」

「ああ、今戻ったところだ。それよりも、そこでなにを?」

「菊代さんがさんまを買ってきてくださったので、七輪で塩焼きをと思いまして――」


そう言って和葉が立ち上がった瞬間、さんまから落ちた脂が七輪の炭の上に落ち、一瞬網を突き抜けて小さな火柱が上がった。


「……くっ…!」


それを見た玻玖は、顔を背けてその場にしゃがみ込む。


「だ…旦那様!?いかがなされましたか!?」


慌てて玻玖に駆けつける和葉。

玻玖は何度も深呼吸を繰り返して、まるで自分を落ち着かせているようだった。


「…大丈夫だ。なんともない」

「ですが――」

「さんまの塩焼き、楽しみにしている」