和葉は、幼少期の幸せな思い出の詰まったその手鏡が、鏡の部分が割れて抜け落ちたというのに、その日から変わらず着替えるたびに帯に挟んでいたのだった。


これを見ると両親の顔も思い出されるが、それよりもこの10年以上毎日帯に挟んでいたため、和葉の中では習慣化していた。


入れておかないと、落ち着かないというか。

入れない理由も見つからないから。


「…前に落として、割れてしまった手鏡です。いつも帯に入れていたので、わたしのお守りと言いますか…。鏡としては使えないのに、どうしても手放すことができないのです」

「そうか。細かい花の絵も描かれて、きれいなものだな。手放したくない気持ちもわかる」

「はい…」


和葉は、玻玖から渡された手鏡の枠を再び帯にしまう。


「そうだ。あの娘に、うちにいると黒百合さんに文を飛ばすように伝えておいてくれるか?」