ベッドでないと寝つけないと言っておきながら。


乙葉の邪魔のない静かな夜。

和葉は膝枕で眠る玻玖の頭をそっとなでていた。


『お前は、この短刀で東雲玻玖の心臓を貫くのだ』


頭の中に貴一の声が響き、一瞬鋭い頭痛に襲われる。


貴一の言うことをどうしても拒むことができない…。

しかし、この愛しい人を殺めることもできない。


和葉は、どうすることもできない2つの選択肢に挟まれ、押し潰されそうになっていた。


「ん…」


ふと玻玖が、和葉の膝の上で寝返りを打つ。


まるで子どものようにすやすやと眠る玻玖を眺める和葉。


「…瞳子……」


秋の虫の声しか耳に届かない静まり返った闇の中に、ふわりと聞こえたそんな声――。


そう発したのは、紛れもなくそばで眠る玻玖だった。


『瞳子』という名前には聞き覚えがあった。