乙葉は荷物といっしょに、一升瓶を持ってきていた。


わがままで自分勝手な乙葉ではあるが、名家の娘として訪問時の最低限の礼儀作法は持ち合わせているようだ。


「東雲様のお好きなものがわからなかったから、ひとまずお酒にしたから」

「…お酒。あまり飲まれているところは見ないけど」

「そうなの?でも有名な酒蔵のものだから、きっと気に入られるわ」


そんな話をしているうちに、玻玖が戻ってきた。


「東雲様、お邪魔しております〜」


開いた障子から顔をのぞかせた玻玖に対し、愛想を振りまき手を振る乙葉。

玻玖は、無言で会釈した。


「…ごめんなさい、旦那様。乙葉を勝手に屋敷に上げてしまって…」


乙葉を客間に残し、玻玖とともに廊下へ出る和葉。


「話は菊代から聞いている。なんでも、家出してきたからしばらく泊めてほしいと…?」