家まで送り届けてもらった私は佐山CMOに支えられ、二階の自室までようやくたどりついた。

「大丈夫か?」

 服のままベッドに横になる。
すぐ横に腰を下ろした彼に、震える声で訴えた。

「なんであの人は、あんなことするんですか? おじいちゃんの作品を自分の物と偽って販売することに、なんの意味や価値があるんですか?」

 仰向けに寝転がった目から、ぽろぽろと止めどなく涙が頬を伝って落ちる。

「彼自身が作った作品でないのなら、それは彼自身が一番よく分かっているはずだ。三上氏の作品を自分の作品として出品することで、自分自身のレートをあげようとしているのかもしれない」
「レートをあげる?」
「自分の作品の価値を、オークションの落札価格で上げるんだ。彼自身の作品でなくても、自分の作品として出品することで、自分の腕と技術を高く見せかけることができる」

 あふれ出る涙を隠すことなく、佐山CMOを見上げた。

「分かりやすく言えば、ゴーストライターみたいなもんだ。彼は君のおじいちゃんの未発表の作品を使って、自分を高く売ろうとしている」
「止められないんですか?」
「難しいだろうね」

 大好きなおじいちゃんの作品が、全く知らない他人によって、酷い扱いを受けている。
その現実を受け止めきれない。

 あのお皿は、アトリエのテーブルに置いてあったものだ。
最初はおじいちゃんの絵筆が乱雑に置かれていたけど、私が洗ってきれいにした。
それに石や砂を入れて、よく庭で遊んだ。
しばらくして再びアトリエに戻されたときには、鍵とか鉛筆とか爪切りなんかの投げ込まれた、小物入れになってた。
私はいつも、あのお皿から爪切りを取って、おじいちゃんに届けていた。

「作品集に記載があるとか、売買の記録が残っているのなら、後をたどれるかもしれないが……」

 佐山CMOの言葉に、私は首を横に振る。

「父がまとめてアトリエごと売り払った時、部屋にあったものは、ほぼ全てが引き取られていきました。明細は、金額の書かれた紙切れ一枚です」

 どうして私は、あの瞬間をとめられなかったんだろう。
おじいちゃんの部屋から全てが奪われていくのを目の当たりにしながら、何も出来なかった無力な自分が嫌い。
非力で無知で何も出来ない自分が、今も許せない。

「作品の管理を、誰もしていなかったのか」

 うちに残されているのは、取り引きの総額にサインした領収書のみだ。
引き受けた業者も、すでに廃業して存在していない。
こうやって忘れられていくのだ。
おじいちゃんの作品は別の誰かの作品にされ、私の思い出も、やがて他の誰かのものに置き換わってゆく。

「方法を考えよう。何か手があるかどうか。難しいことは、また明日考えればいい」

 佐山CMOの手が頭に触れ、髪をくしゃくしゃとかき混ぜてから立ち上がった。

「僕はこれで失礼する。月曜にはまた会社で、元気な姿を見せてくれ」

 彼が部屋を出て行っても、私はずっと天井を見上げていた。
そのまま時は過ぎ夜が終わって朝が来て、また夜が来た。