デイリーオークションの会場に、颯斗さんと並んで入る。
そういえば私が佐山CMOと知り合うきっかけになったのも、この会場だったな。
そんなことを考えながら、彼と共にオークションの席につく。

 吉永商会の店主、吉永俊彦こと、矢沢映芳氏の作品は、やはり吉永商会からの出品になっていた。
自作の陶器や絵画、小ぶりの彫刻が並ぶ。

「それではこれより、オークションを開催します」

 彼の作品群の、最初のロット番号が呼ばれた。

「3万、4万、5万からありませんか? では、5万で56番落札です」

 ハンマープライス。
会場から、ぱらぱらと拍手が聞こえてくる。

「では、次へまいります」

 競りは順調に進んでいた。
このオークションが終わったら、吉永さんと話をしよう。
今日なら佐山CMOもお城のオーナーも一堂に会している。
彼の商売の主戦場であるオークション会場の主催者もいる場所で、いい逃れは出来ない。

 会場スクリーンに、次の作品が映し出された。
矢沢映芳作、皿。
その深い緑のグラデーションがかかった陶器の大皿に、私は突然、意識の全てを奪われた。

「6万円から、7万、8万……」

 激しい動悸とめまいに襲われ、佐山CMOの袖をつかむ。

「どうした?」
「あ、あの……、いま、オークションにかけられている作品は、あの人の作品じゃない。おじいちゃんの……、うちのおじいちゃんの作品です」
「えっ?」

 彼はスクリーンを振り返る。

「それは確かなのか?」

 私がうなずいたのを見届けると、彼はすぐに自分の札を上げた。

「10万、11万」

 なんでおじいちゃんの作品を、自分の作品として出品してるの? 
意味が分からない。

「12万、13万」

 あっというまに、値段がつり上がっていく。
でもこれは、彼の作品じゃない。

「15万、20万!」

 会場がざわつき始めた。
佐山CMOは、また札を上げる。

「21万、22万! 23万!」

 もう一度札を上げようとした彼の腕を、私は止めた。

「23万! 23万で31番、落札です!」
「おい、よかったのか!?」

 私は左右に激しく頭を振った。
違う。
こんなのは間違ってる! 
予想外の高値に、会場から拍手が巻き起こる。
私は胸の動悸と呼吸困難に耐えきれず、席を立った。
おじいちゃんの作品を、矢沢映芳の作品として落札したのは、あのお城のオーナー、三浦将也だった。

「あのバカ」

 佐山CMOがつぶやく。
会場を後にする私たちを、彼はきょとんとした表情で見送った。