「そりゃ怒られるよね。やり過ぎだったと、もちろん今では思ってるよ。だからその晩はたっぷり叱られて、僕たちはもうあの灯台に近づけなくなってしまったんだ」
「だからリンドグレーン氏は、あんな大がかりな仕掛けを作ったんですか?」
「そう。父はもう一度、僕たちにあの灯台で遊んでほしかったんだ」

 夏はあっという間に過ぎ去る。
学校が始まると、充さんはこの場所を離れ、アニタはスウェーデンに帰ってしまった。
次に二人が再会したのは二年後の冬で、もう一緒にいたずらをする年齢ではなくなっていたんだって。

「だけどやっぱり、落とし穴はまずいよね。あそこは塞ぐか、せめて滑り台にしておこう」

 充さんは楽しそうに笑っている。私は誰よりも怒ってみせた。

「そうですよ。卓己が落っこちたんですよ! 卓己に何かあったら、どうしてくれるんですか」
「えぇ! 卓己が落ちたの? そりゃマズかったね。分かった。じゃああそこは、滑り台に作り直しておくよ」
「充さん。ぜんっぜん反省する気、ないですよね」
「もしかして、紗和ちゃんも一緒に落ちたの?」
「私なんかより、卓己が……」

 その瞬間、玄関の呼び鈴が鳴った。
勢いよく扉が開く。

「ミツル! 来たよ!」

 元気よく飛び込んで来たのは、白銀のショートヘアに緑の目をした、背の低いかわいらしい女の子だった。

「アニタ!」

 車いすの充さんが、飛び上がるほど驚く。

「アニタ! 日本に来るのは、来月だって言ってなかった?」
「ミツルを驚かせようと思ったんだよ。びっくりしたでしょ?」
「だけど、来るなら連絡ぐらいしてくれたって!」
「あはは。ミツル、会いたかった」

 ここの一族は、とにかく人を驚かせないことには、生きていけないらしい。
アニタは充さんの頬にチュッとキスをした。

「ミツル。元気そうでよかった」

 充さんも彼女に腕を伸ばす。
2人はしっかりと抱き合った後で、顔を上げた。

「アラ、皆サン、ミツルのお友ダチ?」

 そこからアニタは、時々おかしくなる日本語で弾丸のようにしゃべり続けた。
彼女はその間にも、充さんの髪に触れ肩に触れ、こめかみにキスをする。

「二人とも、とっても仲良しなんですね」

 千鶴がため息まじりにそう言うと、彼は照れくさそうに笑った。

「僕が車椅子になって、アニタが世話をしてくれることになったんだ。彼女がここへ来るまでに、灯台を開ける方法を見つけておきたかったんだ」
「あなたたちが、鍵を見つけてくれたの?」

 アニタは私より、少し背が低い。
くるくるよく回る表情で、私を見上げた。

「ありがとう。すごく、うれしい。感謝します」

 彼女の目は清らかに澄み切り、子供みたいにキラキラしている。